(この記事にはヘルマン・ヘッセの小説『デーミアン』のネタバレが含まれます。未読の方はご注意ください)
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BTSの泣けるほど大好きな曲"Outro : Wings"の動画をシェアします。まずはお聴きください。
この歌が最後に収録されているアルバム"Wings"は、ヘルマン・ヘッセの『デーミアン』という小説がモチーフになっています。
最後の歌詞に注目してください。
なぜ最後の歌詞が「さあ、この翼で飛んでいくんだ!」でなく、「この翼で飛べたらなあ……」なのでしょうか。それは『デーミアン』の結末を読むと分かります。
この物語の主人公エーミール・シンクレアは、第一次世界大戦の戦場に兵士として駆り出され、大怪我を負います。
そして野戦病院で意識の朦朧とする中、隣に寝ていた男に親友マックス・デーミアンの幻影を投影し、幻影の彼にこんなことを言われます。
「ぼくを呼んでも、馬や汽車に乗って駆けつけるのはもう無理だ。困ったときは、自分の心の声に耳を傾けろ。そうすれば、ぼくがきみのなかにいることに気がつく」(『デーミアン』酒寄進一訳、光文社古典新訳文庫版)
そして、優しい口づけをされるのです。
物語の最後にシンクレアがどうなったかは書いてありません。
もしかしたら死んだのかもしれませんし、傷痍軍人となって余生を過ごしたかもしれません。
だから"Outro : Wings"の一番最後の歌詞も「ようし、この翼で飛んでくぞ!」でなく、「ああ、この翼で飛べたらなあ……」なのだと思います。
ちなみに『デーミアン』には、アブラクサスという翼の生えた神が登場します。
シンクレアは大戦前、ギムナジウム(ドイツの大学進学希望者が行く中高一貫校)にいた頃、デーミアンとは離れ離れになっていました。しかしある日の授業中、自分の席に置かれた本の隙間に彼からのこんなメモをたまたま見つけます。
「鳥は卵から出ようともがく。卵すなわち世界なり。生まれんと欲する者は世界を破壊するほかなし。鳥は神をめざして飛ぶ。神の名はアブラクサス」(同書より)
きっとBTSの歌う"wings"とは、このアブラクサスの翼を指しているのではないかと思います。アブラクサスは、善と悪を包含する神、神でも悪魔でもある神です。そんな神なら、神性と魔性を併せ持つ私達人間はすべてを受け止められ、救われるのではないかと思いました。
『デーミアン』と"Wings"は、それほど深遠な内容を持った作品なのです。
もっとも、私は"Wings"というアルバムで歌われた全ての歌の和訳を理解しているわけではないので、また調べないといけないなあと思います。
まあバリバリのガチ勢のARMYの方々のほうが更に凄い論考をネット上に残してくださっているので、そちらもぜひご覧ください。私も読んで参考にして、バンタンの凄まじい才能に打ちひしがれたいです。今もう既に涙目です。
ARMYは自動的に博学になりますね。
ところで今年7月2日は、ヘッセの146回目のお誕生日です。わーい!
BTSのみんなが兵役の心配なく安心して歌って踊れるように、朝鮮戦争の一刻も早い終戦を求めます。あの戦争は休戦しているだけで、まだ終わっていないのです。